手作りルアーに全国から熱視線 元村職員が工房
全国の釣り人が熱い視線を注ぐルアーの作り手が岩手県普代村にいる。熊谷隆志さん(30)は長年の釣り好きが高じて村役場を退職し、手作りのルアー工房を開き、起業した。今は釣り具メーカーの営業代行を兼ねながら自らの生計を立てるのに懸命だが、将来は「釣り」で古里に産業を興したいと目標を高く掲げる。 熊谷さんのルアーは小魚を模したミノーと呼ばれるタイプで「ケアラシ」「ヤマセ」など5種類。主にイワナやヤマメを対象にする。目指すのは「釣りの妙味を理解したベテランに楽しんでもらえ、魚と一緒に写真を撮りたくなるルアー」と説明する。 改良を重ねた形と色彩は美しく鮮やか。装飾品として買う人もいる。岩手をイメージして作るが、カラーは各地の釣り人の好みに合わせ「利根川仕様」「長良川仕様」などもある。 物心ついた時にはもう釣りに夢中だったという。家のそばを流れる普代川で「呼吸をするよう」にさおを振るった。ルアー作りは中学時代に始めた。高校の頃には評判が広がり、受注販売するようになっていた。 進学した北里大海洋生命科学部(相模原市)ではサクラマスの生態を研究した。釣りにも打ち込み、釣り業界に人脈を広げたが、「仕事としては勧められない。給料も安い」とよく言われたという。 2015年に帰郷。村職員の道を選んだが、19年に退職する。「やっぱり釣りを仕事にしたかった。人生は一度。諦めたくない」 釣り具メーカーを回り、営業代行の職を求めた。クラウドファンディングで資金を集め、プレハブの工房を建てた。自らの愛称と確かな仕事への決意を込めて「クマタニトラスト」と名付けた。 現在は6社と営業代行の契約を結ぶ。釣り具を実際に使った経験を基に全国の釣具店に売り込む。使用感や釣り人の評判をメーカー側に還元するのも大切な仕事だ。 ルアー作りはバルサ材を削り出し、磨き、塗装し、おもりやワイヤを付ける。完成まで約1カ月かかる。頑張っても月産50個で1個3300円。出荷した釣具店ではすぐ売り切れるほどの人気だが、ルアー作りだけで生活は賄えない。 それでも熊谷さんは「仕事としての釣りをやめる選択肢はない」と言い切る。「どんな形でも釣りで村に雇用を生み出したい。ルアーなのか他の釣り具になるのかは分からないけれど」と挑戦を続けていく。 熊谷さんの連絡先はkumatani.tru@gmail.com ルアーは普代村のふるさと納税の返礼品になっている。