釣りいかだに魅力「ちょい足し」建築士が考えた活用法とは!?
徳島県鳴門市といえば「世界三大潮流」の一つである鳴門海峡の渦潮で知られるが、激しい潮流とは対照的な「ウチノ海」が約3キロ西南にある。波静かな海域で、有名な海釣りエリア。地元出身の建築士らが海に浮かぶいかだに釣り以外の「ちょい足し」をする活用法を考え、注目を集めている。 ウチノ海は、紀伊水道に面した大毛(おおげ)島と、播磨灘に面した島田島に挟まれた内海。釣りファンに有名なエリアで、大小100基近くある釣りいかだがあちこちに浮かぶ。中にはトイレ付き、テント付きのいかだもある。 いかだの活用法を考えたのが東京都文京区在住の1級建築士で、都内の建築設計事務所に勤める花岡竜樹(りゅうじゅ)さん(34)。徳島市出身で、職場の同僚や関連会社の社員らと地元のいかだに着目した。 花岡さんは高校卒業まで、祖父母の住む鳴門市瀬戸町堂浦をしばしば訪れ、ウチノ海を望む岸壁で釣り糸を垂らすなどして過ごした。いかだは市外から訪れる釣り客の利用が多く、「(ウチノ海に浮かぶ)いかだだともっと釣れるんだろうなあ」という思いはあったものの、乗ったことはなかった。 進学した都内の大学で建築を学んで就職。さまざまな視点を持った同僚らと出会う中、古里を活性化させる知恵をもらうようになった。同僚らは2021年から、少子化の影響による小学校などの教育施設の休校、不便な公共交通機関、災害時の対応といった瀬戸町地区の課題の調査を始めた。 その年の9月、帰省した花岡さんはウチノ海のある鳴門市瀬戸町堂浦を自転車や徒歩で巡り、スマートフォンで町並みや名建築とされる小学校校舎などを同僚らにライブ中継した。子どもの頃に祖母と散歩した町並み、対岸の島と行き来する船、地元の神社……。花岡さんには慣れ親しんだ場所ばかりだったが、視聴した同僚らには新鮮だった。「1時間半の旅番組を見たような満足感があった」と振り返るメンバーもおり、中でも関心を引いたのが代表的な「ウチノ海の風景」と言える釣りいかだだった。 「ウチノ海の自然と風景を未来へ残すためにも釣り以外の目的で訪れる人を増やし、地域の魅力を知ってもらう」。そんな思いを強めたメンバーが考えたのが、釣り以外でのいかだ利用だった。薪(まき)ストーブやベンチを載せた塩水浴サウナ▽マットを載せ、日の出を浴びながらのヨガ体験▽釣った魚で海上バーベキュー▽魚礁をぶら下げて集まる魚を観察できる“いかだ水族館”――。花岡さんらはアイデアを鳴門市が募ったビジネスプランコンテストに応募し4月、12件の中からグランプリに選ばれた。 今後は地元でいかだ約20基を営む高橋勝さん(64)らと協力。老朽化したいかだ1基をグランプリの賞金約30万円を使って同僚と共に改造し、貸し出す考えだ。花岡さんは「魅力あるいかだの風景を残すためにも、住民との話し合いを進めていきたい」と話す。